―ザック BAD
BOY DANCE ―
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薄汚れたスラムの片隅で、少年たちの歓声があがる。
「さすが、ザックだぜ」
「うるせえぞ、おまえら。当たり前のことでいちいち騒ぐな」
口から泡を吹いて地面に倒れる大柄の警官を見おろしながら、ザックは軽く両手を払った。
「いいか、もう二度と俺たちの前に顔を出すな。ガキのスリくらいちょっとは見のがせ。おい、ちゃんと聞いてるのか」
ザックは横たわる警官の頭をもう一度ポカリとなぐった。
ある日、ボクシングの元世界チャンピオンがタイからやって来たムエタイの戦士と対戦試合を行う― との話を聞き、ザックはその会場へぶらぶらと歩いてやって来た。強引に金を払わず入場すると、彼は一番前の席に座り足を広げてふんぞり返った。試合は強烈な足技を繰り出すムエタイ側の圧勝に終わった。
「ほう、『むうぇたい』ってのはそんなに強いのか。 どーれ」
試合後、着替え中のムエタイ選手の控え室に、勝手に扉を開けてザックがずかずかと入って来た。
「よう、俺とひとつやってみないか」
いきなり拳を振り上げるザックにとまどうものの、ムエタイ選手はすぐさま体勢を整え反射的に肘を放った。顔面に痛烈な一撃をくらい、ザックは後ろによろめいた。
「肘で殴るなど、汚い野郎だ。もう手加減しねえぞ」
ザックは素早いステップで相手に接近すると、一瞬の内に膝を放った。
ムエタイ選手の体は大きく吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
「こりゃ、すげえ。おまえの技をいただくぜ。ありがとよ」
豪快に笑いながら、床にのびているムエタイ選手を尻目にザックは部屋を後にした。
その後、彼はムエタイのビデオを見て技を覚え、自己流のムエタイスタイルを修得した。
夏の日の午後、いつものようにやることもなく街をぶらついているザックは一枚の看板の横を通りかかった。
『究極の異種格闘技大会、D・O・A(デッド オア アライブ)出場者募集中!』
何気なく一瞥をくれただけのザックだったが、その桁外れな賞金金学が彼を立ち止まらせた。
「ほう」 口元が思わずゆるむ。
「わざわざ俺のためにこんだけ用意してくれるとはご苦労なこった」
看板を壁から無理やりはがすと、ザックはそれを小脇に抱えた。そして口笛を吹きながら、再び彼は通りを歩き始めた―。