―ティナ スープレックス爆弾娘
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本当はティナ
はプロレスなんてすこしもやりたくなかった。幼い頃に母親をなくし、一人でここまで自分を育ててくれた父にはとても感謝している。けれど体のちいさな頃からたたきこまれてきたプロレスよりもやりたいことがある。今日は言いたいことを全部言ってしまうつもりだった。
「ティナ、次の試合のことなんだが・・・」
きた。ティナはおもいっきり息をすいこんだ―。
「父さん、あのね、もうプロレスなんてどうでもいいよ。むかし父さんが果たせなかった夢だとかなんだとか、ほんと言うといいかげんうざったいんだ。女子プロのチャンピオンっていったって、わたしも二十二歳なんだよ。ふつうの女の子みたいなこともしてみたいし。どーせ、わたしにかなう人なんてもういやしないんだから、プロレスやめちゃってもいいよね」
父バースの顔は燃えるように赤らみ、腕はぷるぷるふるえていた。
「それで・・・おまえは一体どうしたいっていうんだ」
「わたしねぇ、モデルになりたいんだー」
バースのフライングクロスチョップがティナめがけて飛んだ―。
ぎしぎしきしむ柱。へっこむ床。折れてころがるテーブルの足・・・。両者互いにゆずらぬ激闘は、バースの腰痛のためあっけない幕切れとなった。かつて無敗のレスラーと呼ばれた彼も現役引退からはかなりの年月がたっている。
「いいか、ティナ」
腰をさすりながらバースは言った。
「そんなに格闘の世界は甘いもんじゃあないぞ。これを見なさい」
バースは落ちている雑誌を拾い、まん中あたりを開いてティナに渡した。でかでかと書かれた見出しがティナの目に入ってくる。
―世界一の異種格闘技大会
”デッド・オア・アライブ”
本年度の開催せまる!昨年度の大会優勝者はテレビや雑誌で大人気―。
ティナの頭脳が高速回転を始めた。
大会に出場 →
乙女の快進撃 →
世界中に中継 → 優勝
→ テレビ出演 →
モデル!!
「プロレスの世界だけじゃない。父さんは、おまえにどんな相手にも負けぬ強い子に育って―」
「わかった。父さん、わたしこの大会に出てみる」
父親の言葉の終わらぬうちにティナは言い放った。バースは口をぽかーんと開いたまま娘の顔を見つめた。
「もう、きーめた。わたし、大会に優勝してみせる。そしたら文句ないでしょ」
ぼうぜんとする父をよそにティナはバッグに着替えをつめ始めた。顔をかくして、ティナはくすくす笑っていた。大会が終わった後、自分のピンナップがバカ売れしている光景を思い浮かべながら・・・