―レイ・ファン あいつと闘いたい―
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明るく、素直、誰にでも優しく
―時々いじわる。
レイ・ファン
はそんな女の子だった。裕福な家に生まれた彼女は、なんでも一番を取りたくて、勉強も習い事もたくさんした。けれど何よりも得意だったのは、男の子に負けないために始めた武術、太極拳だった。
最初は習い事の一つにすぎなかった。が、十三の頃には同じ道場の十代の門下生では練習相手にもならなくなってしまった。誰よりも技が上達した彼女は、みんなにほめられてとってもうれしかった。もっと、もっとほめられたい。彼女はいつもにっこり笑って、男の子をぶったおした。
ある日、いつものように道場に向かう途中だった。レイ・ファンは小さな男の子が黒いメガネをかけた背の高い二人組みに囲まれているのを見かけた。
― お金なんてないよ!
男の子が泣きながら叫んでいる。ははーん、この人達、いわゆる悪いやつらね。他の大人は見て見ぬふり。わたしが助けてあげなきゃ。
ぼかん!
突然、顔にきつい一発をくらった二人組は、飛び込んできたのが体のきゃしゃな少女だったのに驚いた。するとまた一発!
レイ・ファンの手足はまるで孤を描くように柔らかく、そして鋭く二人の体をとらえた。やがて一人が倒されると、かっとなったもう一人の黒メガネは腰からナイフを取り出した。
次の瞬間、レイ・ファンの右腕から血が飛び散った。男のナイフの鋭い刃に触れてしまったのだ。
さされる・・・!
鋭い気合の声とともに、さっと影が頭上を横切る。するとナイフを持った男は、はるかかなたに吹っ飛んでいた。男は後頭部をひどく打ちつけて、ぴくぴくけいれんしていた。
あぜんとするレイ・ファン
の前に立っていたのは同じ年頃の少年だった。突然やってきた少年は、何も言わないで歩き去った。レイ・ファンの視界から「龍」
の刺繍が施された道着ゆっくりと消えていった。
なんなの、あの人。別に助けてもらわなくたってよかったんだから。ほんとによかったんだから・・・。
その日から、レイファンはより真剣に修練に打ち込むようになった。数年後には道場の師範代を倒してしまった。けれど、彼女は今でも忘れることができなかった。
あいつ。あいつにまた会いたい・・・そして、あいつと戦ってみるんだ。
レイ・ファンには自分の胸の中のなんだかもやもやとしたものの意味が良く分からなかったが、きっとあの時の少年を倒せばすっきりするような気がした。だから両親が泣いて止めようと家を出るつもりだった。
ぜーったい、あいつを倒しにいくの!