―孤高の拳士、 ジャン・リー―
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孤高の拳士、ジャン・リー
みなしごだった彼は中国広東省の孤児院で幼少を過ごした。無口で誰にも心を許そうとはせず、他の子供と一緒にいることも少なかった。愛情を知らずに育った彼にはそれに代わる「何か」が必要だった。
ある日、退屈のあまり孤児院から飛び出し、彼は町をぶらついていた。すると広場のテントで面白い映画をやっている、と町の子供が騒いでいるのを耳にした。
彼はテントに潜り込み、端の方に座ってスクリーンを見つめた。
若き拳法の達人が卓越した技を駆使して、次々と襲いかかる悪人を倒していく。まわりの子供はただやかましく騒いでいた。しかしその時、彼は自分に必要な「何か」を見付けたのだった。
これだ― 力だ
少年は瞬きもせず、映画に見入っていた。そしてスクリーンの中の格闘家の動きを脳裏に焼き付けた。彼は孤児院に帰らず、それから町で格闘の修行と決闘を繰り返すようになった。
数年後、己の力に自信を付けた彼はアメリカへ渡り、ジャン・リーと名乗った。異国の地において対戦相手に事欠くことはなかった。やがて、金を積まれて用心棒まがいの仕事を引き受けるようになった。己の力を試せるなら闘いに善悪など関係なかった。
しかし、ジャンが本当に欲していたのは金でも地位でもなかった。彼は己の空虚な心を満たす闘いを求めて、町から町を渡り歩いた。
ある日、噂を聞きつけ勝負を挑んできた男を倒し、拳にこびりつく血をみながら彼は自分に問いかけていた。
― 俺は一体、いつまでこうやって闘い続けるんだ
すでに、初めて格闘技を身に付けた時の喜びも何もが消え去っていた。ただ闘う相手を求め、さまよう獣にすぎなかった。
それから、彼は一人で本格的にジークンドーの修行を始めた。時折、町で出会う強敵との闘いにいつしか自分の心が熱くなっているのを感じていた。
さらに強くなれば、きっとこの乾きもいやすことができる―
その後、未だ放浪を続ける彼は最強の格闘家を決定する大会の噂を聞いた。
― デッド・オア・アライブ
そこに自分の求める闘いがあるはずだ。
ジャン・リーは、一瞬だけ笑みを浮かべてから、拳を強く握った。